「レアがおすすめです」
出典元、ステーキ店「いきなり!ステーキ」で、店員が客に焼き加減を聞いたあとに沿えるひと言。心理的誘導術。
ステーキの焼き加減なんてものは好きにすればいいし、店側が「レア」をおすすめしてきたと言っても強制している訳ではないので普通に「ミディアム」でも「ウェルダン」でも頼めばいい。というか、あんなスーパーファーストフード店に、かしこまって専門用語を使う必要すらなく、「普通の焼き方」とか「よく焼き」とか、伝わればいい表現で注文すればいい。「レア」は使われる用語なのでみんな知ってそうだが。
……ん?
え、もしかしてそういう事なのか……? そう、”ステーキの焼き加減の名前ってなんだっけ問題”、である。店員に「レアがおすすめです」と言われているから「レア」は除外するとして。「普通の焼き方」であるところの「ミディアム」、「よく焼き」であるところの「ウェルダン」はそれほどみんなが覚えていて、すいすい出てくる名前なのだろうか。問題はその問答における、恥ずかしさである。
”正式名称が言えずに恥ずかしいからその焼き方を頼まない”。
「普通の焼き方」とか「よく焼き」と言ってしまうと、「ミディアム」も「ウェルダン」も知らないんだなと思われてしまい、恥ずかしいから言わない……。客にこの思考の流れが発生しているのではないか。逆に言えば、「いきなり!ステーキ」側もそれを分かった上で、
「レアがおすすめです」
と言っている。意味、「レアを選べよ~、選べよ~」という事なのではないか。ん? それの何が問題なの? それはもちろん、
「あ、なんだ、結局客の回転率の事を考えてんじゃん」
という話である。「いきなり!ステーキ」が立ち食い形式の高回転率で高級ステーキを食べさせる店だという事は周知の事実。まあ長居して欲しくないんだろうな、というのは椅子の高さからも分かる。それなら焼き場まで注文しに行かせるパフォーマンスをまずやめろよ、という文句も言いたくなるが、変なこだわりはこだわり切りたいのだろう。しかし「レアがおすすめです」の根拠であるところの「肉の鮮度には自信を持っている」という部分も、これはひっくり返しているのではないか。
もし思惑がなにもなくて、客に美味しい肉を食べて欲しい事を第一に考えているのなら、レアがおすすめであっても! こうなるだろう。
「表面だけ焼いて中は生の状態のものがレアで、肉の中心部に赤みが残るくらいの焼き加減がミディアム、中心部まで赤みを残さずよく焼いたものがウェルダンです。熱した鉄板に乗せて提供いたしますので、提供後もお客様ご自身で焼きを調整しながらお召し上がりいただけます。店としてはレアがおすすめですが、いかがなさいますか?」
こうじゃない? いやかなり丁寧にはしたけども。しかしこの説明を聞いたとしたら、ちゃんと焼けている方が好きな人は普通に「ミディアム」や「ウェルダン」を選ぶだろうし、提供後にも焼き加減を調整出来る事も分かってそれも計算に入れるだろう。「ミディアム」とか「ウェルダン」の名前を知らないから、本当は「レア」は嫌だけど仕方なく「レア」を選ぶ、そういった事にはならない。はは~ん。
「レアがおすすめです」
by「いきなり!ステーキ」。
裏切られた感じはあるよね。やっぱり、あるよね。