「ふーん、玄米ビスケットがあるのにね」
出典元、ハウス「ナチュラルブラウン」のCMより。出演しているダンサー、森山未来のセリフ。
微笑ましい洗脳の話。
CMの内容としては、レポーターが”玄米が人気”な事をリポートしており、それをテレビで観ていた森山未來がドヤ顔で、
「ふーん、玄米ビスケットがあるのにね」
と言いナチュラルブラウンをかじる、というものである。ナチュラルブラウンがつまり玄米ビスケットで、そこまで奇をてらった造りのCMという訳ではない。
問題は、ちょっと特殊な条件化でこのCMが大量投入されてしまった事にある。
2006年、海外ドラマ「24 -TWENTY FOUR-」のシーズン4が深夜放送された際、この「ナチュラルブラウン」のCMがやたらと繰り返し流れてしまった。……まあ別にそういう事もあるし、深夜だし多少はね、といった出来事だが、あまりにも繰り返し流されてしまうと観ている人の頭もぐるぐるしてしまう。初めは「またこのCMかよ森山未來ウザい」と言っていた人たちが、段々なんだか楽しみになってきてしまったのである。そしてそれはある意味祭りとなった。
テレビを観ていて祭りもなにもないだろう、という話だが、そこはそれ、一人で観ても一人じゃない状態にする事が可能なのである。つまり、テレビを観ながらネットを開き、2ちゃんねるのその番組の実況板を見る、というやり方である。ハマると非常に面白く、ネット時代の一大娯楽と言ってもいいだろう。これがニコニコ動画ならそのままコメントは動画に被さってくるし、YouTubeでも生放送なら横に表示されるが、今の時代においても普通のテレビ放送がそのままネットで流される事はあまりない。当時2006年で言うならパソコンでネット閲覧が一般的だっただろうか。テレビを観ながら実況板で他の人の感想を読んだり、自分の感想を書いたりと一喜一憂する楽しみ方だった。
そんなたくさんの人が注目している中、これだけ同じCMが流されると、そっちの意見も増えてくる。CMをうとましく思っていたはずだが、あまりにも流され過ぎて皆のリアクションがおかしくなって来たのである。ゲシュタルトが崩壊したのかもしれない。CMの中でドヤって来るので”ちょいウザ”キャラの森山未來の顔を、いつの間にか好きになってしまった人たちが増え、次第に何回目かカウントして待ちわびる様になり、このCMが流れるたびに実況板が盛り上がるというよく分からない状態になってしまった。
「24」が終わってもこの熱が冷めなかったのか、このフレーズはネット上で使われる様になる。玄米とは全く関係ない掲示板で唐突に使うなど、悪ふざけに使われてしまう。「ふーん」と相づちで始まっているため、会話のリアクションとしてほぼ万能な使い勝手だったせいもあるだろう。しかしもちろん、意味が通じないなら相手に対して失礼だし、失礼と分かっていて使うならそれは荒らし行為である。さらにこのCMの存在を知らない人からしたら、唐突に現れるちょっと特殊な玄米という食品のちょっと特殊な加工品を、「知らないの?」とばかりに使われる訳で、理解に時間が掛かりどうしてもリアクションが遅れてしまう。ちょっと相手の動きを止める時に、なかなか有効な技なのかもしれない。そう考えて使っているのなら大したものだが、普通はただ使いたくて使うだけだろう。
「ふーん、玄米ビスケットがあるのにね」
しかしこうやって流れを追って説明してもやっと理解出来る程度の事で、少しでもすっ飛ばすとなぜこれが人気ワードになったかさっぱり分からないレベルの騒動である。同じCMをひたすら流せば宣伝効果が高いと思われるのも困る。もしかしたら、たまたまこのCMの要素だった”玄米”や、”森山未來の顔”や、
”最終的にそんなに美味しそうに見えないナチュラルブラウン”
などが、広範囲の人たちの脳をちょっとだけ惑わせたのかもしれない。