「いいえ、ケフィアです」
出典元、やずやの「千年ケフィア」のコマーシャルで使われたセリフ。いいえ、ケフィアです。
正確には以下となる。
「ヨーグルト。いいえ、ケフィアです。」
まず「ケフィア」とはなんぞや、という話になるが、もうしばらく謎でいた方が話が分かりにくいので、説明は先送りにする。「ケフィア」、この聞き慣れないながらも固有名詞として存在感のある名称が、まずこのエピソードの要だった可能性は高い。「ケフィアです」ドン! と言い切られたけど「それなに!?」となる、ワンセンテンスで解決しない掛け合い。このフレーズに取り憑かれてしまったのは、やはりネットユーザーだった。
つまり「いいえ」で始まるフレーズが非常に使い勝手が良かったのが悪かった。良かったのが悪かった。当時流行っていたニコニコ動画で動画を作ったり繋ぎ合わせていた人たちが、ここに飛び付いたのである。胡散臭い男が一人、その名は矢部野彦麿!
「いいえ、ケフィアです」
普通、繋げればいいというものではないのだが、これに関してはよっぽど適当なものでも繋がってくれる。そしてそれが謎の面白さを提供してくれるのだから恐ろしい話である。同じボケにたくさんのバリエーションのつっこみが入るのとは逆である。たくさんのボケ、いやボケでもなんでもないものに、同じつっこみが作用している……。後半が固定なので観ている側としては「このあとどうなるんだろう」感が”ない”。にも関わらず何故か笑ってしまう。原因は不明である。好きな言葉は……、下剋上だ!
「いいえ、ケフィアです」
反語にも通じるものがあるが、そもそもこのフレーズが否定から始まっている。そして本来ならヨーグルトを否定しているだけなのが、後半だけ切り取られる事により全く関係のないものを否定するフレーズになるのである。しかも、じゃあなにかと言われればそれが「ケフィア」である。虹の根本は触れるんですか?
「いいえ、ケフィアです」
会話になっていなくてもアリで、こんな使い方でいいのである。動画の流行と前後して、掲示板でのやり取りや、ブログなどでも使われる様になった。もちろん「ケフィア」とは関係ない話で、である。でも使いたくなる。なんとなく、使ってみたい。問われると、答えたくなる。謎の魔力を持つフレーズだったのである。ああこれが、呪文か。で、結局「ケフィア」とはなんなのか。宇宙空間を満たしているエネルギーなのか。概念みたいなものなのか。クラムボンみたいなものなのか。いいえ?
「ケフィア」はロシアのコーカサス地方で飲まれていた、ヨーグルトに似た乳飲料である。ヨーグルト? いいえ、ケフィアです。日本では「ヨーグルトきのこ」と呼ばれている様で、つまりきのこの菌を使って牛乳などを発酵させたヨーグルトの亜種だったのである。じゃあまあつまりヨーグルトみたいなものなのね。いいえ、ケフィアです。
CMの作り手側としてはシンプルに、これはヨーグルトに似ているけど「ケフィア」という別の乳飲料なんですよ、とやっただけだった。ヨーグルトを否定していただけである。しかしこれが雑にザッピングされてしまい、よく分からない過程を経て、謎の面白さが完成してしまった。結果として、ケフィアの知名度向上には多少の貢献はあっただろう。犬に噛まれたと思ったら撮影されていてそれがSNSでバズって日本中からお見舞いをもらった様なものだ。このフレーズは2007年に、なかなかの威力でネットスラングとしてブイブイ言わせたのである。こんなの元から狙ってやれるはずがな い に も 程 が あ る。
ちなみにこのフレーズ「いいえ、ケフィアです」は、ネットで話題になった初期に別の意味合いで使う人がいたのだが、結局広まったのは上で説明した、ネタ的な使い方だった。その初期の意味については詳しくは書かないが下ネタなので、それを塗りつぶした、もしくは上書きしてしまったところに、この悪ふざけの功績があるだろう。これを功績と言えるのならば。