「目方」。
出典元、不詳。どこかのとんかつ屋さんでの客と店員の会話より。
客がとんかつ屋に入り、メニューを見た。とんかつ定食や単品類、お酒などが何種類か並んでいる。どちらかというと硬派な昔ながらの店で、壮年の男性店主と、その母親か、おばあさんが切り盛りしていた。メニューも堅苦しいたたずまいで、写真が付いているということもなく、縦書きの文字だけである。
とんかつ定食には「松」「竹」「梅」の3種類があった。値段もその順に高い。とんかつとかうなぎってそういうのあるよね、と客は思い、でも一応値段的に「竹」と「梅」で迷ったので、近くにいたおばあさんの方に聞いてみた。「竹と梅って何が違うんですか?」、その答えがこれである。
「目方」。
三文字である。そっけない。「めかた」って何だっけ……。ああ重さの事か。つまり量が違うって事なのね。まあそんなもんだよね。それにしてもそっけないな。この店はこんなものなのかね。客も少ないし。寂れていると接客態度も雑になるのか。まあいいけどね、おばあさんだし。結局その客は、「梅」を頼んで普通に美味しくいただき、店を出たのである。
目方? 重さ? 量? ……質じゃなかったッ! と気付いたのはしばらく後である。
もうちょっと、もうちょっとだけ親切に説明が出来なかったものか。「梅」と「竹」の違いが量だけだとしたら、さらに値段の高い「松」がもっと量が多いとは考えにくい。なにせ定食である。つまり「松」なら「竹」の量で質のいい肉だったのではないか。客商売なんだからそういう事を気にする客がいる事を予想して、丁寧に説明して欲しかった。これは贅沢を言っているのではなく、普通の要望だろう。それに値段の高い定食を頼んでもらう方が店にとっても利益があるはずなのだから、アピールしてもバチは当たらない。この辺が、昭和だなぁ、というか、大正かもしれないが、気力の充実しているとは言えないおばあさんの限界なのだろう。それにしても三文字はない。しかも表現が古くて分かりにくい。「目方って何だっけ?」と一瞬考えてしまう。しかし非常に印象に残るひと言であった。
が、言われてみれば「量が違います」だと味がないし、「重さが違います」だと表現が直球すぎる。「高い方が量も多いし良い部位を使ってますよ~」と言われて断りにくくされても困る。「目方」というひと言こそが専門店ならではの”通”な言い方だったのかもしれない。