「なんも言えねぇ」
出典元、水泳の北島康介が2008年の北京オリンピックで金メダルを取った際に放ったセリフ。
北島康介といえば、その前回のアテネオリンピックで金メダルを取った際の「チョー気持ちいい」も有名かと思うが、こちらのセリフもまた有名であり、心に来るものがある。あ、初めに言っておくが、本人がその時どう思って言ったかは、周りがどう思おうと、身内がどう裏話をしようと、”本人が後からどう解説しようと”、その時の本人にしか分からない。全てはただの憶測である。
それを踏まえた上で憶測を言わせてもらえば、やはりプレッシャーのかかった戦いだったのだろう。前回金メダリストである。当然、今回は二連覇の期待が日本中から寄せられる。そのプレッシャーの中、どう実力を発揮するか、スポーツ選手の命題でもあるが、特に精神面の強さを極限まで発揮しての二連覇という結果だったのだろう。決まってしまえばそりゃあほっとする。
おそらくだが、北島選手としてはレース前からインタビューの事も多少は頭にあったのだろう。何しろ前回は流行語大賞まで取っている。何を言うかというより、何を言ってくれるかと集まってくるインタビュアーを満足させるものを言わなければならない。しかし、取れたメダルによって言える事は違うのだ。金メダルならまた最高の嬉しさを表現すればいいし、もしかしたら「チョー気持ちいい」をもう一度使えたかもしれない。マスコミもそれを望んでいたかもしれない。進化版を望まれていたかも、しれない。しかし銀、胴となると違ってくる。さらに下なら慰めモードである。こんなの決めておけるのだろうか。
北島選手は、「その時思った事をそのまま言おう」と考えていたのではないか。上記のパターンで色々考えすぎてしまうと競技に影響する。「チョー気持ちいい」だってその時パッと出た言葉だろう。普通の若者言葉だが、多数の共感を呼んだ。
そして二度目の金メダルである。やりきった、結果が出た。やった、二連覇だ。おそらく喜び、ほっとしただろう。インタビュアーが集まってくる。自分だけなら叫んで走り回っていたかもしれない。座り込んで涙と共に喜びを噛みしめたかったかもしれない。けど何か言わなきゃ。そうだ、今思った事を言えばいいんだ、そう決めていた……。インタビュアーにそんな期待されても、何を期待してるんだ、期待通りのものは取ったぞ。これ以上ないプレッシャーの中で、これ以上何を望むって言うんだ。ちょっとほっといてくれよ。コメント? そんなもの、
「なんも言えねぇ」
くしくもそれしか言えなかった。しかしそれがまた日本中の共感を呼び、名言になった。流行語大賞にもまたノミネートされたという。人とは分からないものである。持っている人は持っているということか。何でもない言葉だが、北島康介の言葉になってしまった。考えておく必要なんてない。思ったことをそのまま言えばいいのだ。
トップアスリートの極限状態での言葉というのは、それだけで力がある。