「実は基本的には小説は面白い。中には下らないのもあるが、ほとんど本を読まない人がたまに読んだりすると予想以上に面白かったりする。」
出典元、Yahoo!掲示板「なぜあんな小説を褒めるのか」より。どこかの誰かの書き込み。
作品名は出さないが当時非常に話題を集めた小説について語り合う掲示板だった。当時というのは2004年で、話題になった理由は芥川賞を受賞した作品だからである。そして話題を集めたのは芥川賞受賞作だというだけではなく、要するに芥川賞を受賞した作品が「あんな小説」呼ばわりされてしまうほど低レベルだった事にある。これはもちろん賛否両論あるが、概ね「あんな小説」扱いだったと記憶している。つまり、「なぜあんな小説を褒めるのか」がテーマである。
ま、別に事情や選考委員の動機が本当に分からない訳ではなく、おおよその見当は付く。まず芥川賞なり文壇の注目度が下がっていた点。話題性のある受賞者が出ればマスコミが飛び付くだろう。そしてちょうど良く、若くて美人の新人作家の作品がノミネートされていた点。そこまでの過程でもなんらかの思惑が働いたのかもしれないが、とにかくこんな子が芥川賞を取ったなんて事になったら大ニュースになるに違いない、そういういやらしい魂胆が見え見えの受賞だった。しかもなぜか、点数に差が付いた1位と2位の二人がいたにも関わらず、ダブル受賞になったのである。なんでもありか。しかしマスコミは当然の様に飛び付いたし、狙い通り世間の注目の的にもなった。作品もたくさん売れた。
それが問題である。
そこで吹き荒れる「なぜこの程度の作品が!?」という酷評の嵐。芥川賞は新人作家系の賞なので一応まあ直木賞よりはランクは下である。しかしそれにしても連日ニュースになり本屋では積み上がり売れに売れまくっている作品が、なんかギリギリ作品の体を成しているけどもちょっとこれで他の人を押しのけて権威ある賞を取るほどのものかぁ? と、言われまくったのである。さもありなん。小説とは作家のビジュアルで勝負するものではなく、作品の内容で勝負するものだからである。
が、しかし、論争も起こるのである。日々、小説を読んでいる人にとっては概ね、「なんだこの低レベルの小説は」という評価だった。当然である。内容に対しての周囲の取り上げ方の差が大き過ぎるのである。が、テレビなどで「面白かったー」の声も聞こえるのである。……ん? 面白かった? 掲示板についても同様、それなりに批判の嵐であるが、そこそこ「面白いけど」の意見もあった。どうしてこの様な現象が起こるのか。おそらくその答えが今回のセリフである。以下に全体を引用する。
受賞後にここで彼女らの小説を褒める費とが増えたな。
要するに「芥川賞」という色眼鏡で読んでいるからいいものだという先入観があるのだろう。それから、実は基本的には小説は面白い。中には下らないのもあるが、ほとんど本を読まない人がたまに読んだりすると予想以上に面白かったりする。
普段ほとんど本を読まない人間がマスコミに踊らされて本を読んでそれなりに面白いものだから絶賛する。
普段読まないから比較もできないという理由もあり、盲目的に絶賛する。
肝は、小説というものは基本的に面白い、という部分である。そして、小説を読まない人というのは実はかなりいたりする。活字離れの話ではない。ネットがどうという話でもない。要するに実用書も読む、雑誌も読む、ネットでニュースも読む、でも”おはなし”には興味ないなぁ、という人がいるのである。そういう人が、話題になったからとすごーく久しぶりに小説という物を読んだりすると、「あ、小説って結構面白いものなんだ補正」が働き、つまり普段からよく小説を読む人が酷評する様な作品でも、面白く読めてしまったりするのである。当人にとっては本当に面白かったかもしれないが、……、ひとこと言いたくなる人が大量発生してしまうのも仕方ないと言わざるを得ない現象だった。
まったく、……綿矢りさが今どんなレベルの作家になっているのかは知らないが、芥川賞の価値はあの時間違いなく下がったし、あの回の話題性を上げる事にだけ注力し過ぎていて、長い目で見れば業界的には、罪な受賞だったと言えるだろう。