「ニャー」
出典元、映画「魔女の宅急便」より。ネコのジジのセリフ。
セリフと言うより鳴き声か。
「魔女の宅急便」、原作小説自体は角野栄子の作品だが、宮崎駿監督のジブリ作品として非常に有名なアニメ映画である。1989年の初上映以来、テレビでもたびたび放映されているため、日本人なら見た事がない人の方が少ないだろう。ジブリ作品ならではの優しいタッチの絵と、映画作品の見本とでも言う様なストーリー、観終わった人を温かい気持ちにさせる後味はまさに神技である。映画のため作中でエピソードはいくつかしか描けない。しかしその中で主人公キキの成長、街の人たちとの交流、ちょっぴりファンタジーな世界観をしっかり表現しており、観た人はあとからいくらでも「あの街でこんな事もあるんだろうな」と想像を楽しめる、素晴らしい作品である。しかしその余韻に、
……、
ほんの少しの”キナ臭さ”を残すのが本編ラストのセリフ、
「ニャー」
ジジのこれである。
ご存じの通り、ストーリーはキキが魔女の修行のため、街で独り立ちするところから始まる。しかしキキは物語中盤、魔力を失い飛べなくなってしまう。自分の拠りどころである魔力を失い、相棒のジジの言葉さえ聞けなくなってしまった。しかし友達との交流などもあり、最後はトンボを助けるため、必死の思いで飛ぶのである。……飛べたのだが、「良かった、魔力を取り戻したんだね!」という視聴者の気持ちをこのジジの「ニャー」が少しだけ後ろから引く。そして引いたまま物語は終わってしまうのである。え……、魔力戻ったのに、ジジの声聞けないままじゃん……。
こういう温かい作品に、そういう要素が必要かどうかは置いといて。場合によっては「受け取り方は人それぞれ」と視聴者側に丸投げされがちなこの疑問に、制作側からいくらかの答えは示されている。いわく、キキの魔力が落ちていたからだ、だとか、本当はしゃべるシーンがあったのにカットしてああなってしまった、だとか、ジジが恋をして普通のネコになったからだ、だとかである。原作者の話も聞きたいところだが、さすがに小説は元からかなり設定が違っているので参考にならない。一番参考にしたいのは監督の宮崎駿の弁なのだが、それが以下の内容である。
「(最後にキキの)魔法は更に深くなったんですよ。何か得るものがあるなら失くすものがあるんだよ。いつまでも猫と話してんじゃねぇ、って」
うん……? 適当に言っているような……。
これはもしや、「受け取り方は人それぞれ」にしたかったのに下手にしゃべってしまったせいで、正解が迷走してしまったのではないか。まあ、エンディングでまだデッキブラシで飛んでいるところも謎と言えば謎だし、「いい話だったね」ですんなりと終わるよりも、多少の考察を呼ぶ要素を残しておいた方が、濃いめの余韻を残せるという高等テクニックが使われたのかもしれない。
本ページの情報は2023年3月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。