「さんをつけろよデコ助野郎」
出典元、大友克洋のアニメ映画「AKIRA」より。主人公金田(かねだ)のセリフ。
映画本編では、上の立場であった金田が、下の立場にある鉄雄(てつお)から呼び捨てにされた事に対し逆上して放ったセリフである。ここからバトルに発展するのだが、会話内容としてはごく普通に「俺が上なんだから呼び捨てにすんな」という意味合いである。デコ助野郎は鉄雄がデコ助だからであって深い意味は無い。というかそのまんまの意味である。しかし1988年公開から幾年月、このセリフはいつの間にかネットスラングとして使われる様になっていた。多分、語呂が良過ぎて知っている人は思わず使いたくなるのが一番の原因だろう。
主にネット上で、ボケ気味のツッコミとして使われる。相手がデコ助かどうかは関係ない。そもそも掲示板などでは相手のおでこは見えない。用途としては「呼び捨てにしちゃいけない人」を呼び捨てにした、書き込んだ人に対し、とりあえずつっこんでおこう、という時に使われる。どう説明したらいいか……。野球選手などは放送では「坂本選手が」などと呼ばれるが、一般人は「坂本が」と呼び捨てにする。ありふれた、ごく普通の呼び方である。が、そこにつっこみ気味に「さんをつけろよデコ助野郎」と使われる。とはいえ特にルールは無く、特定の人に対し一部の人が急に噛み付いて来る謎の現象とも言える。
このセリフがよく使われるのは魚類研究家の「さかなクン」についてだろうか。「なかやまきんに君」や「サンプラザ中野くん」もそうだが、正式名称に「くん」や「さん」が入っている人は、呼び方が難しい。そもそも「さかなクン」に敬称を付けてしまうと「さかなクンさん」になってしまうのでそれはそれでなんだそりゃである。が、「さかなクン」と言えば数年前、絶滅されたと思われていた「クニマス」の生存確認に大きく貢献し、魚類学者でもある天皇陛下が名前を出して喜びを表明されたというエピソードがある。こういう事があるとどうなるかと言うと、「さかなクン」の格が一つ上がってしまうのである。実際になにか叙勲された訳では無いが、天皇陛下に喜んでもらった、しかも個人的に思い入れのある生物に対してという事であった。これはもう「すげぇ!」である。
……すごい人な訳で、掲示板などで「さかなクンが~」の書き込みがあるとかなりの頻度で「さんをつけろよデコ助野郎」のフレーズが飛んでくる。これにはもちろん、「すごい人なんだぞ」という意味と、「クンにさんをつける面白さ」が含まれている。あとついでに「語呂が良いので言ってみたいセリフ」、という三段構えである。そりゃあ使いたくなるわ。事故エピソードとして、NHKで「さかなクン」と呼称したところ、ツイッターで該当のつっこみがあり、もちろんギャグなのだが、NHKが真に受けて謝罪したという”事故”がある。なんというか……、笑えばいいと思う。
使いたくなる語呂の良さが一番の罪で、漫画「バガボンド」の作中でもしれっと使われており、ビックリした読者も多いだろう。もちろん、知らずにスルーした読者も多いだろうが、作者である井上雄彦が知らずに使った可能性は、”絶対にない”。