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哲学

“ミステリーの掟”「連続殺人でなければならない」”十戒”でも”二十則”でもなく

投稿日:2020年10月7日

「連続殺人でなければならない」

出典元、不明。「ミステリーの掟」的なもののひとつより。

ここで言うミステリーとは、ミステリー小説の事である。漫画や映画でもミステリーのジャンルはあるが、文字だけの小説とはまた楽しみ方が違う。ミステリー小説というのは”娯楽”の一大ジャンルであり、ミステリー小説の楽しさはミステリー小説でしか味わえない。

ミステリー好きは、必ずしも謎解きがしたいからミステリーを読むのではない。自分では謎を解く気もなく、ただストーリーと謎解きを楽しんで「おお~」と感心するのを楽しむ読者もいるのである。ミステリーには、一定以上の楽しさが担保されるという安心感がある。つまり「謎かけがあり、謎解きがある」事が保証されている。どんなに途中が退屈であったとしても、最後には必ず山がある。その信頼があるために数ある小説の中からミステリーを選ぶ人も多い。

いや、どんな小説にだって最後に山があるじゃないか、と思うかもしれないが、ミステリーの山ほどほかのジャンルの小説には信用がないのである。世の中には雰囲気で作品を作り上げる困った作家がいて、そういった作家の書いた小説は、なんとなく話が進んで、なんとなく波があり、ふわっと物語が終わる。読者は消化不良のままよく分からない後味を味わわされるが、作者は「受け取り方は読者それぞれにありますから」という言い訳でいくらでも逃げられる。そういった「毒にも薬にもならない」小説もあるため、それらと比べるとミステリーにある謎解きという安心感は替えがたいものなのである。

ただ、ミステリーもまた長い歴史があり、作者もファンも煮詰まり過ぎたせいで、作品にではなくミステリー自体を語りたくなって、「ミステリーの掟」的なものを作り出す人もいるのである。有名なものに「ノックスの十戒」と「ヴァン・ダインの二十則」がある。これらの法則は、”ミステリーとはこうあるべき”というものをアメリカンな洒落を利かせつつ書いているもので、それはそれで面白いのだが、ちょっと皮肉が効き過ぎている部分もある。

探偵が頭を悩ませて散々推理した結果、最後に超能力で心を読んで犯人を当てられても興醒めだし、密室の謎にウンウン唸っていたらボタンひとつで部屋がズゴゴゴゴゴ……と変形して抜け穴に登場されてもポカーンだろう。そういった「これはダメだろう」という要素を「こうあるべき」として書いて行くとそういった掟になるが、さすがに十も二十も挙げていたのでは多過ぎる。敢えて絞り込むとするなら、このぐらいだろう。

・殺人事件が起こらなければならない。(ヴァン・ダインの二十則)
・事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。(ノックスの十戒、ヴァン・ダインの二十則)
・作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。(ヴァン・ダインの二十則)
・犯人は、物語の当初に登場していなければならない。(ノックスの十戒)

殺人事件でなければ物語の緊迫度は上がらない。物が盗まれたと言って警察がドタバタして探偵がでしゃばるのは滑稽である。そして、あくまで頭脳対決なのだから作者はすべてヒントを出した上で、読者が思いもよらない真実を提示して欲しい。また、いわゆる地の文で嘘を吐いてしまってはルール無用になるし、フェアではない。そして、最後の最後に登場した人物が犯人でしたー、とやってしまうと読者の熱が一気に冷めてしまうので、さすがに御法度である。

・連続殺人でなければならない。

ん?

そんな法則は「ノックスの十戒」にも「ヴァン・ダインの二十則」にもないが……、しかし。しかし、……そう、実は日本でよく語られる「ミステリーの掟」には、これが含まれているのである。出典元が曖昧なので信憑性に欠ける情報だが、その信憑性は発表されている作品自体が担保してくれている。少し思い浮かべるミステリー作品は、どれも連続殺人になってはいないだろうか。一度に何人も殺されるのではなく、第一の殺人があってそれを発見し、騒ぎになったあとに第二の殺人が起こる。よく考えるとあの作品もこの作品も連続殺人になっている――。

これはおそらく日本における「ミステリーの掟」のひとつで、物語の複雑さを増すために作られたものなのだろう。かなり有名な作品もそれに縛られていて、必ず殺人は連続殺人になっている。しかし逆に言えば謎解きのヒントを複数回に及び提示している事になるので、アリバイの有無による絞り込みが進む要素にも繋がっている。むしろそうやって犯人を追い詰めるための舞台装置として、連続殺人が作者に強要されているのだろうか。

ひとつの大きな謎でもいいはずなのに、どうしてこれだけ連続殺人になっている作品が多いのだろうか。作者の都合なのか読者の要望なのか、あるいは本当にこの「ミステリーの掟」に縛られているのか、これはこれでなかなかのミステリーである。

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