「枯れた技術の水平思考」
出典元、任天堂で「ゲームボーイ」などを手掛けた横井軍平氏の哲学。横井氏は既に故人である。
ゲーム業界ではかなり有名と思われる、横井氏の使っていた考え方である。ゲームだけでなく製品開発においてどんな分野にも応用の利く考え方だと思われる。簡単に説明すると、新しい製品を作る時に最新技術だけで設計するのではなく、昔からある技術、つまり”枯れた技術”も同列に考えに入れて設計せよ、という事だ。昔からある技術の利点として、「大量に出回っているので単価が下がっている」、「問題点が出尽くしているので対策も分かっている」、などがある。そして、枯れた技術だけを使うというのではなく、それを最新技術と絡ませて新製品開発に用いるべし、という事だ。技術者は得てして最新技術ばかり使いたがるが、それだとお金も掛かるし、その技術を見せたいばかりに利用者の事を考えない独りよがりな製品が生まれたりする。また、同じ技術を使っているのでどこも似た様な製品を作ってしまうという弊害もある。そうならないために、古臭くても構わないから、昔からある技術を最新技術と同列に”水平思考せよ”、という事である。その考えで上手く相乗効果がもたらされた時、イリュージョンが生まれる。敢えてざっくりと要約するなら、「昔ながらの技術と最新技術を同列に並べてアイデアを練る」といったところか。
横井氏が手がけたところから離れて任天堂の話で分かりやすいところでは、「ニンテンドーDS」がある。特徴は画面が2つある事と、タッチパネルで操作出来る事だ。液晶画面もタッチパネルも当時からしてとっくに”枯れた技術”だった。液晶画面はゲームボーイから使っているし、タッチパネルというものもさらに昔からあった「PDA」や、銀行の「ATM」でずっと使われて来たものだからだ。ただゲームで使われていなかったというだけである。「ニンテンドーDS」は無線対戦やインターネット接続も出来た訳で、まさに最新技術と”枯れた技術”の合わさったゲーム機だったといえよう。
他にも、「ニンテンドウ64」でコントローラーが振動したり、「Wii」のコントローラーを振ったらスピーカーが入っていて「キンッ」という音がしてビックリしたり、「ニンテンドー3DS」で本体を動かして照準を付けるジャイロコンパス機能が使えたりと、任天堂はいくつもの”枯れた技術”を用いている。横井氏はいなくなったが、「枯れた技術の水平思考」は任天堂の開発思想に受け継がれ、これからも「この手があったか!」と思わせる新しい驚きを提供してくれるのだろう。
深く考えを巡らせてみれば、どんなものにも応用が利く考え方だと言える。製品開発以外にも生かせるだろう。こんなの古い古いと思っているようなものこそ、最新技術と組み合わせてみたら面白いことになるかもしれない。片方が最新技術なら、その組み合わせはまだ、誰も検討した事がないのだから。