「耐乳酸トレーニング」
出典元、アスリートのトレーニング方法より。乳酸菌とは別物である。
名前を知ったのは確かスピードスケートの清水宏保のトレーニング風景をテレビで見た時だったか。あの、全力疾走すると膝が苦しくなるのは”乳酸が溜まるから”と知った驚きと、それに耐えるトレーニングがある、というダブルの驚きだったのを覚えている。
ちなみに最近では「耐乳酸トレーニング」の是非についても研究がされている様だが、有効だという前提で話を進める。
そもそもそれほど有名でないのは、100メートル走などの短距離では意識しないものだからである。そしてマラソンなどの長距離でもおそらく関係ない。つまり中距離、400メートル走などで関係してくるものなのだ。全力で走り切れる距離ではない、が、初めからペース配分を考えてがっつり長距離モードのマラソンとも違う。初めはほぼ全力疾走、そして後半は全力の尽きたあとの地獄の様な乳酸の苦しさとの戦い、それが中距離走、らしい。そして清水宏保がトレーニングしていたという事は、スピードスケートの500メートルや1000メートルでもちょうど直面する課題だったのだろう。
確かに100メートル走はひと息で全力を出し切って終わり、というイメージだ。しかし400メートル走は100メートル走ほど速くないがほぼずっと全力、という中途半端さを感じる。しかしそれが一番苦しく、トラック競技の中では次に全力が出せるまでの休憩を一番長く必要とするらしい。華やかさで劣っているのに割りに合わない競技である。しかし正式種目な事に変わりは無い。
「耐乳酸トレーニング」はつまりその苦しさに耐えるトレーニングな訳だ。その苦しさに耐える事に慣れるトレーニングらしい。例えば、400メートル走の練習で500メートルを走る。400メートル走なら300メートルぐらいの段階で乳酸値が最大になっているらしいのだが、それを500メートル走る前提で練習すると400メートルの段階で最大値になる。なので実戦で400メートルを走る時に、500メートルに慣れていれば一番苦しい時間が一瞬になる、といった具合である。また、200メートルを短いインターバルを挟みつつ連続で走るなどのトレーニング方法もあるらしい。どちらにしても苦しさに耐えるのに慣れるトレーニングである。なんでこんな競技を選んでしまったんだろう、と思わないか外野は思ってしまうが、実情を知って結果を出す人を見ると格好良さが分かってくる。恵まれた体格と身体能力を生かして100メートル走を勝つアスリートとは、少しタイプの違う勝利者という意味でリスペクトを感じられるだろう。
「耐乳酸トレーニング」、乳酸菌みたいな名前なのでヨーグルトを使ってそうなイメージを持ちそうだが、全く違う過酷なトレーニングである。そのトレーニングに「さあやるぞ!」と気合いを入れて毎日の様に取り組んで、克服して来た人に、勝利の女神は微笑むのだろう。身長の低い清水宏保選手が金メダルを取った様に、生まれながらの身体能力ではなく、本当に苦しいトレーニングを続けて来た努力で勝ち取った勝利だ、という見方で見ると、新しい楽しみ方が出来るかもしれない。