「パリ カチコミ艦隊は健在 旧市街上空 ゼロポイントを降下中」
出典元、『シン・エヴァンゲリオン劇場版 AVANT 1(冒頭10分40秒00コマ) 0706版』より。青葉シゲルのセリフ。
これは「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズの4作目、「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」の先行公開カットである。2019年7月6日にフランスで開催されたジャパンエキスポの高橋洋子ステージで公開された。本編の公開がまだかなり先で、全世界待望の最新作の映像が10分も流れるとあって、当時その界隈は大変な騒ぎとなったのである。パリだけで公開されるのではなく、日本でも数か所の屋外スクリーンに公開するという事で、エヴァファンは総員「ガタッ」状態だったが、どこで公開するかは当日の数時間前まで発表しないという嫌がらせ仕様だったために、ちょっとしたオリエンテーションイベントとなった。結局動画は、パリも含めて現地で観た人がYouTubeなどにアップしたので行かなくても良かったが……。
この「AVANT」というのはフランス語で「アバン」と読み、アバンタイトルという映画用語の略称らしい。アバンタイトルとは「映像作品のオープニングに入る前に流れるプロローグシーンのこと」なので、この作品にオープニングテーマは無いと思うが、だからつまり”冒頭”でいいのだろう。タイトルに「:||」が付いていないのが少し気になるが、冒頭に付けてしまうと「一度だけ繰り返す」的な意味のあるこの音楽記号の効果がややこしくなってしまうから付けなかったのかもしれない。
「パリ カチコミ艦隊は健在 旧市街上空 ゼロポイントを降下中」
そして公開されたその映像はやはり濃いものだった。まずエッフェル塔が視界に入り、その先で”立てて収納された戦艦”が空中に浮いているというぶっ飛んだ絵は、とにかくインパクト抜群だった。パリっ子はエッフェル塔にざわついていたが、なにはともあれ7年待った正式な続編映像という事自体がファンには感慨深かっただろう。
そしてお馴染みの青葉シゲルからオペレーターとしての報告が入る。いつもの声の安心感、続いてあちこちから報告されるこの整然としたオペレーターたちの声がやはりエヴァらしさであり、エヴァの魅力と言えるだろう。指揮官が無茶を言い、オペレーターが「ダメです!」と叫ぶ、しかしそれしか手がなく、強引にでもやり切ってしまうあの感じ、あの感じがエヴァには必要なのである。話の展開上、待ち構えた第三新東京市でエヴァと使徒が戦う展開は無くなってしまったが、替わりにヴンダーという”司令部を持つシステム”は用意された。”あの感じ”はここで引き続き楽しませてくれる、つまりはそういう事なのだろう。
ただ、もちろんここまで映像が出ていたとしてもどこでひっくり返るか分からないのがエヴァである。そもそも「シン・エヴァ」の冒頭がこんな感じになると思っていた人はいなかっただろうし、「破」の続きを想定していた人や、もうちょっと現実的に「until You come to me.」の部分だと思っていた人が多かっただろう。どこかのサイトから感想を引用すると、
また世界の状況や時間も『Q』のラストからさほど変化していないようで、かなりストレートな『Q』の続編だったのは逆に意外かもしれない。
そう、そんな感じ。
また、このAVANTが全世界に中継された事、今の時代ネットにアップされるのを分かった上で公開し、アップされた物を消したりせずそのまま載せられたままにしているのは、計算された作戦だった事が予想出来る。通常ならば劇場公開されてからしばらく待ち、DVDとブルーレイ化されてからじっくり確かめるべき内容が、動画サイトに上がってくれたおかげでじっくり繰り返し観られるのである。これはエヴァファンにとって大きい要素で、作中の細かい文字を解読して隠された意味を探ったりする、通常ならば本公開のずっと先にならなければ出来ない楽しみを、一部分とはいえ体験出来ているのである。映画の予告として冒頭を公開するというのはなかなかの奇策だったが、いい感じの宣伝効果は発揮出来たのではないだろうか。
ちなみに冒頭が青葉シゲルの声と言ったが、実際はその前から裏でマリが歌っているので、マリの声の方が先である。歌は「真実一路のマーチ」、1969年の曲である。AVANTが本当に「シン・エヴァ」の冒頭なら、「シン・エヴァ」のオープニングテーマは「真実一路のマーチ」という事になってしまう。しかしよく考えると「Q」だって「ひとりじゃないの」という1972年の曲がオープニングにかかっていたし、「破」は「三百六十五歩のマーチ」、これも1968年の曲である。そして歌うはマリ・イラストリアスcv坂本真綾な訳で、小道具にしては豪華過ぎると言わざるを得ない。そうそうたるオープニングテーマ群である。