「脳内(さいばんしょ)」
出典元、川田の漫画「火ノ丸相撲」、第212番(212話)より。柱のコメント。
柱というのは漫画の、欄外に記載されている煽り文である。最終ページの柱に続きが気になる様なひと言を添える使い方が分かりやすいだろうか。これはジャンプやチャンピオンなどの雑誌掲載時には載っているが、コミック化されると消えるのがお約束である。煽り文自体は柱ではなく絵の上に直接載っていたりもする。雑誌のみでの楽しみとも言えるが、作者ではなく編集者が入れているので少し毛色が違う。しかし長年使われて来た漫画雑誌の手法であり、週刊少年マガジン以外では読者から概ね好意的に受け止められている。
今回のセリフは相撲漫画の「火ノ丸相撲」より。刃皇(じんおう)は、主人公たちが優勝を食い止めるべく戦う最強の横綱である。最終ページではなく最初のページの柱にこの一文はあった。
刃皇VS大典太!!大典太の猛攻により、刃皇の脳内(さいばんしょ)に衝撃が…!?
である。脳内(さいばんしょ)とは。
どこをどう変換しても脳内でさいばんしょと読むのには無理がある。しかし「火ノ丸相撲」を読んで来た読者にとって、刃皇が脳内に裁判所を持っている事は周知の事実なので、さいばんしょとルビを振られても納得出来てしまうのである。恐るべき事に。というかそもそもそのページに脳内裁判所の情景が描かれている。そこには性格の異なる多数の刃皇がいて、会議をしている。シュールと言えばシュールだが、刃皇はいくつもの性格といくつもの型を併せ持つ横綱なので、こういった多重人格的な要素を脳内会話という形で絵にするのは漫画表現としては分かりやすい。まあその舞台に裁判所を持って来るというのも凄い話だが。脳内に裁判所を持っているキャラクターなんて、現在連載中の漫画では刃皇か四宮かぐやぐらいしかいない……
いるんかい!
はい、いました。赤坂アカの漫画「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」の主人公、四宮かぐやもまた、脳内に裁判所を持っているキャラクターである。こちらもまたこじらせた性格で、多重人格的なところがあるのでたまにその人格同士が揉め出し、脳内の裁判所で裁判が始まってしまう。四宮かぐやは女子高生なので、大相撲の横綱と女子高生が同じ様な脳内構造をしているというのも笑える話だが、別作品で脳内(さいばんしょ)が被ってしまっているというこの展開自体が面白い。まあ漫画というものは面白ければなんでもいいし、実際どちらの作品もアニメ化されるほど面白いので、結局そこになんの問題もないのであるが。
また幸い、掲載誌は週刊少年ジャンプと週刊ヤングジャンプで同じ集英社なので、もし今後かぐや様の煽り文にでも脳内(さいばんしょ)の表記がされる事があったとしたら、指を差して騒ぐのではなく、ひっそりニヤリとしてあげよう。