(ニンニク入れますか?)
「トッピングはどうなさいますか?」
出典元、ラーメン二郎で使われる、クセの強い言い回しの一つ。完全なる初見殺し。
ラーメン二郎、カリスマ的人気を誇るラーメン屋である。しかしそれと同時に、行った事のない人にはやたらと敬遠される、敷居の高さに定評のあるラーメン屋でもある。のれん分けの形で店舗を増やしているが、東京の三田に本店がある影響でおおよそ関東を中心とした広がり方である。しかし次第に、いわゆる”二郎インスパイア系”の店が全国各地に増え始め、あの味はそれなりに全国各地で食べられるものになっている、と言えるだろう。インスパイアというのは無断パクリみたいなものなので綺麗な話ではないのだが、まあそれは……、そこまでして食べたい人がいるという事実と、それだけ嗜好性と中毒性の高い食べ物だという事実を証明している。
そして、ラーメン二郎を語る上で避けては通れない話題が「独自ルール」である。怖いイメージが付いているせいで、そのルールを破ると店の人から怒られるのではないか、常連客から睨まれるのではないか、そう不安に感じて初めの一歩を踏み出せない人も多いだろう。しかもその独自ルールは、同じラーメン二郎であっても店舗によってちょっとずつ違っていたりするのだから堪ったものではない。
とりあえず初めて行く人が「おおっとぉ?」となるのは、有名な”コール”のタイミングだろうか。食券を出すタイミングではなく、麺が茹で上がって店員から聞かれたタイミングでコールが可能となる。茹で上がったあとじゃ硬めとか指定出来ないじゃん、という話になるが、つまり麺の硬さと量を指定するのは食券を出すタイミングなのである。もちろんこれは、指定しなくてもいい。つまり時間を離して2回、好みを言うタイミングがあり、コールはあとなのである。食券を渡すタイミングでコールすると「あとでまた聞きます」と言われる。なるほど、これは初見殺しと言われても仕方がない。
そしてお楽しみのコールタイム。ニンニク、ヤサイ、アブラ、カラメから自由に選んで追加出来る無料トッピングの指定タイムで、ここは好きにすればいいのだが、こちらも絶妙なトラップが待ち構えている。すなわち、店員から掛かる声がこれなのである。
(ニンニク入れますか?)
「トッピングはどうなさいますか?」
……。
んっっっ!?
店員から掛かる声は「ニンニク入れますか?」なのだが、意味は「トッピングどうなさいますか?」なのである。えええええ。日本語の意味すら超越した二郎の独自ルール、その真骨頂である。客はそれに答えて希望のトッピングを言う。つまり会話としてはこうなる。
店員「ニンニク入れますか?」
客A「ヤサイアブラカラメで」
店員「ニンニク入れますか?」
客B「全マシマシ」
店員「ニンニク入れますか?」
客C「えっ……、あ、お願いします……」
日本語のやり取りとしては前二人はおかしいのだが、二郎ではそれが正解なのである。そして最後の人は初心者だな、と周りの人が思ってちょっと優越感に浸るのが”二郎あるある”という……。しかもニンニク以外のトッピングをしたかったのなら、そのチャンスを逃しているという悪いおまけ付きである。
「ニンニク入れますか?」は、ラーメン二郎の社訓であり、どこかの二郎ではドカンと巨大な看板に書かれているぐらい、二郎系を象徴するフレーズである。つまりこのフレーズもまた、カリスマ的な意味を持つ呪文となっているのである。本店がトッピングを聞く時にこのフレーズを使っているので、ほかの店も踏襲し、またインスパイアだって使いがちである。もちろんちゃんと「トッピングどうなさいますか?」と聞いてくれるところもあるのだが、どの店がそうなのか、つまりそれが店ごとに違っているのがやっかいなところなのである。数々の敷居の高さを見せてくれるラーメン二郎だが、その中でも一番やっかいな初見殺しが、これと言えるだろう。