「先どうぞ」
出典元、飲食店などに複数人で訪れた際、先に料理が届いた人に向けて言うセリフ。機微がメンドクサイ。
意味としては、「こちらが届くのを待ってくれるつもりなのはありがたいですけど料理が冷めてしまいますので先に食べ始めてください」である。往々にして「待たれるとむしろ気まずいし」という意味も込められている。シチュエーションによって使うか使わないかが微妙なため、とにかくメンドクサイ。料理は同行者と出来るだけ同じタイミングで届けて欲しいが、そうもいかない場合はどうしてもあるので仕方のないところである。しかしメンドクサイ。
友人同士、気の置けない関係なら気にせず勝手に食べ始めていい話である。が、上下関係があるとそうはいかない。主には会社の上司部下などの上下関係がはっきりしている際に使われる。
上司の料理が先に届いた場合、部下がまだだとしても、上司はしれっと食べ始めていいパターンだろう。「いただきまーす」や「……っし、いただきます」などのひと言があると、”先食べちゃうよ~”のサインになるので空気的にほどよい。直接言わないのもポイントである。まあ、直接言ってもいいが。ただしここで上司が気を利かせて部下を待とうとしてくれた場合、部下はそこでこのひと言を言わなければならない。
「先どうぞ」
と。
これはもちろんその二人の関係性や性格によるのだが、部下にしてみればさっさと食べ始めてくれる上司の方が気が楽だったりする。そしてまた、”待とうとしてくれるけど「先どうぞ」と言えばすぐ食べ始めてくれる”という人も気安い。そういう人だと分かっていれば、上司が先の場合は毎度当たり前の様に「先どうぞ」を届いた瞬間に言えばいいからである。パターンとしてはここで終わりそうだがまだある。”待つ事にこだわる”人がいるからである。礼儀正しいと言えば礼儀正しいが、上下関係が絡むとこれがまたメンドクサイ。つまり部下が「先どうぞ」を言っても、「いや、待つよ」と言ったり「いや、ううん」とごまかしたりして絶対に先に箸を付けないタイプの人である。こうなると部下としてはメンドクサイ。そう言ってるんだから好きにさせろよ、と思うかもしれないが、料理の届くタイミングが5分も10分も違って待たされたり、またラーメンの様に伸びてしまう料理は賞味期限が短い。会話などして気にしない体でいつつも、ラーメンが届いて10分も待っていたら心中穏やかではないだろう。しかし部下が「先どうぞ」と言っても決して手を付けようとしない。部下にはどうしようもない。空気はややヒリついて来る。やっぱりメンドクサイ。
逆に、部下の料理が先に届いた場合はどうだろうか。少なくとも部下は、しれっと食べ始めていいシチュエーションではない。とりあえず上司の料理が届くのを待つ姿勢を取らなければならない。具体的には料理をガン見したりせず興味なさそうにしてメニューをまた眺めたり、上司と会話をしたりして届いた料理に意識を向けない、といったやり方である。そしてこの場合、上司には選択肢が存在している。気を遣って待ってくれている部下をそのまま待たせるか、「いいよ先食べてて」と言って先に食べさせるかである。ここは比較的自由であるが、自由なだけに気を遣うのを忘れていると部下の方も「先に食べてていいですか?」とは直接聞きにくいため、しょうもないおあずけタイムが発生してしまう可能性のあるシーンである。どちらにとってもメンドクサイ。そしてここにももちろん二人の関係性は関わって来るが、上司がものすごく上の上司だった場合、「いいよ」と言われても部下は食べない方がいいパターンが存在する。平社員と会長、とかの偉さの差や、年齢もかなり離れていた場合、いいと言われても待った方がいい可能性を考えるべきだろう。”待つ事にこだわる”訳でもないのに結局”待った方がいい”パターンである。つまりメンドクサイ。
これがあるから一緒に食事に行きたくない、という人もいるぐらいメンドクサイテーマである。こんな事で悩むのも虚しいが、しかし毎日そんなお昼を経験しているサラリーマンも、世に多数存在しているだろう。嗚呼、メンドクサイ。