「わけがわからないよ」
出典元、アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」より、キュゥべえのセリフ。キュゥべえは少女たちを魔法少女へと導くマスコットキャラ、みたいなキャラ。
なんだか普通のセリフだが、知っている人はこのセリフを聞いて「お、キュゥべえだな」と連想するぐらい、有名なセリフでもある。「魔法少女まどか☆マギカ」は従来の”魔法少女もの”アニメとは大きく趣を異にする、非常にとんがった作品である。可愛らしいキャラクターと、それとは対照的な厳しい世界観となかなかに過激な描写。おそらくタイトルから「よくある魔法少女ものか」と思っている人の予想とは、かなり違った感じの作品かと思われる。主人公のまどかが魔法少女になり初めて変身するのが最終話である、と言えば、普通の作品じゃないというニュアンスが少しは伝わるかもしれない。物語が進むにつれてどうなるんだ、どうなるんだ、という先の読めない展開になり、放送当時には界隈がざわざわし、さらに震災の影響で最終話の放送が延期になり、やっとクライマックスの最終話が放送されるとその内容の衝撃から、ネット上はしばらくその話題で持ちきりとなった。12話という短さながら話題性や影響力、完成度や語りたくなる内容と、アニメ史に残る名作と言っていいだろう。
「わけがわからないよ」
……まあ、これだけ聞いてもわけがわからないとは思うが。
そしてこういう作り込まれた作品にたまにある要素として、とあるキャラのひと言が謎の中毒性を持ち、ちょっとした流行語になるという現象がある。わかりやすいところではエヴァンゲリオンにおける「逃げちゃダメだ」みたいなものである。それが「魔法少女まどか☆マギカ」で言えば、キュゥべえの「わけがわからないよ」になるのだろう。日本語の意味としては意味不明な時のリアクションに簡単に使えるため、しばらくあちこちで使われていた。わけがわからない時に使うのがストレートだが、わかる時に使ってもちょっとしたギャグになるため非常に使い勝手のいいセリフである。こんなただのひと言なのに。
「わけがわからないよ」
そしてこのセリフ自体は、知らない人はこれを聞いて、普通のセリフだと思うだけだろう。しかしそういう普通の感想で受け止めるには、作中使われたこのセリフは”闇が深かった”。
キュゥべえはネコをもじった様な、架空の動物というか妖精みたいなキャラクターで、一応可愛い。しゃべる時に口が動かず不穏な感じがするものの、まあ魔法少女ものにこういう変わったキャラは居るよね、といった受け止められ方をしただろう。しかし実際のところは、可愛さは置いといて、”しゃべる人外”なのである。人間ではないので人間の気持ちはわからない。それは普通の動物にでも、ネコやイヌにでも言える事なのだが、それがしゃべる上にその方向性がキュゥべえはどぎつい。つまり言い換えれば、人間の気持ちなど考えてもいないのである。普通の少女の気持ちがどんなものかなどわかりもしないし、家族を大切に思う気持ちも理解しないし、人生が変わる選択にたった一つの願いを選ぶギリギリの感情も理解しない。
このセリフの意味はおおむね、
”魔法少女になると肉体を失うけど、それを気にするなんてわけがわからないよ”
である。
これを、見た目は可愛らしい、マスコットキャラが言うだけあってインパクトは抜群である。
だから闇は、深い。