「みなさん、夢の中で会って以来ですね」
出典元、お笑いコンビ、オードリーのコントより。開幕にぶちかます春日の定番のセリフ。
「……かなりうなされたかと思うんですけどね、ええ」
そして相方の若林から入る、柔らかいつっこみまでがワンセンテンスである。ここだけで既に芸術的な流れを成している。若林はこれだけしか発していない訳だが、その直前の「……」の間の中に「なに言ってんだこいつ」、「また馬鹿な事言ってやがる」、「あ、お客さんにフォローしておかないと」の空気が込められている。……気がするぐらい絶妙な間のつっこみである。つっこみが柔らかいというところに職人芸を感じる。またバリエーションもいくつかあり、それごとに絶妙なつっこみが用意されているので隙がない。観ている側も開幕から油断出来ない。
オードリーの二人にしか出来ないこのオードリー掛け合いだが、この、そう思わせる掛け合いを一つのコントの中でいくつもいくつも入れて来るのがオードリーの凄いところである。定番ネタを複数持ち、それをいろいろなコントの中に散りばめて来る。それもオードリーを知っている人にしか通じないネタでは無いのである。初見の人も笑えるし、何度も見ている人も同じ流れなのに笑ってしまう。しかも時にはそれにフェイントを入れて来たりするものだからコントの組み立ては無限大である。よくこんな仕組みを考えたものだと感心するしかない。そもそも漫才の冒頭に、片方は普通に出て来るのにもう片方が悠然と胸を張ってゆっくりと偉そうに出て来るなんてのが型破りだ。
「ウィ!」
そしてそれを面白くしてしまうのが凄い。逆に考えればその回のネタがイマイチだったとしても、枠組みである春日、若林のやり取り自体が一定の面白さを保証してくれるので、失敗の可能性が低い。そしてまた今さらになるが、二人の知名度とキャラクターもかなりブランド価値を持って来たので、コントをするというだけで結構な価値がある。また、女性にとって意外と二人とも萌え対象になるキャラクターらしく、それだけとってもブランドと言える状態だろう。定番の掛け合いの一つである「お前それ本気で言ってんのかよ」、「本気だったらこんな長い間一緒に漫才やってないだろ」、二人で顔向け合って「えへへへへ!」は笑いアンド萌えと言えるだろう。
ところでこの二人、春日が目立ちがちだが力関係は若林の方にあるらしく、たまに見せる本当の顔にそれが見て取れる。狭い箱で行った漫才で、若林が機嫌が悪かったのか終始キレ気味に演じていた事がある。その時春日は、ギリギリ本気に見えない際どいビビり方をしていた。あれを見た人は忘れられないだろう。あの体格差で力関係が若林にあるのが面白いが、それは春日の「あれだけはやめてください!」からの、若林の「あれってなんだよ、裏でなんかやってるみたいじゃねーか」が
シャレに聞こえない瞬間である。