「赤」「緑」というとりわけインパクトの強い色を、きつねうどん、たぬきそばという、まったく無関係なものに無理やり結びつけ、さらに長年にわたって言い張ったあたりが勝因だろう
出典元、齋藤孝の本「売れる!ネーミング発想塾」より。しゃれの効いた、無粋なつっこみ。
「売れる!ネーミング発想塾」は、特定の職業における企業秘密的なテクニックをべらべらしゃべるという、よくある実用書である。読む分には興味深いが、おそらく同業者から「そんな本出すなよ!」と思われているだろう。特にこの本の場合は、コピーライターというそもそも人口の少ない職業の大事なテクニックをしゃべってしまっているので、なかなかに致命度が高い。しかし作者の齋藤孝は、文章とか言葉とかに関するそんな本ばっかり書いている人である。代表作は「声に出して読みたい日本語」で、ちょっとした日本語ブームを巻き起こした事もある。
で、本題は「うどん」と「そば」の話である。いや、「きつね」と「たぬき」の話か。「赤いきつねと緑のたぬき」は、もはや耳にタコが出来るほど聞いているので武田鉄矢の声で再生されそうだが、マルちゃんの販売しているカップ麺のロングセラー商品である。カップ麺の「うどん」と「そば」と言えば、日本人なら真っ先に思い浮かべる商品と言えるだろう。しかしなぜ「きつね」と「たぬき」に赤と緑が冠されているのか。……となるが、その前に「きつね」と「たぬき」からして語源の解説が必要そうである。
「きつね」とは油揚げの事で、「たぬき」とは天かすの事である。「きつね」が油揚げなのは分かるが天かすは納得しにくい。「きつね」については、一般的には油揚げが”動物のキツネ”の好物だからだとか、色合いがキツネに似ているからだと言われている。うん。これはなんとなくわかる。わかりみが深い。問題は「たぬき」の方だが、これは天ぷらの「たね抜き」がなまって「たぬき」になったそうで、確かに天かすは具というか”たね”がないので、言われてみれば納得のいく説明である。こちらは動物のタヌキとは関係なかったが。
それでなぜ赤と緑なのか。「きつねうどん」は別に赤くないし、「たぬきそば」も別に緑色をしていないのに、である。今のところ全くその色の要素がないので、ウィキペディアを参照してみる。赤は、発売当時流行っていた山口百恵の曲「プレイバックPart2」の歌詞「真っ赤なポルシェ」から、社長が発想を得てそれに決めたそうである。情報量が多いな……。そして緑は赤の対照の色として付けられた、と。雑か。逆に情報量が少ない。しかしという事は、特に「うどん」だから赤とか、「たぬき」だから緑とかいう理由は無かったのである。特に無いというか、皆無。しかし今現在、「赤いきつねと緑のたぬき」が日本人の頭に自然に印象付いているのは、ああ、つまりこういう事か。齋藤孝曰く、
「赤」「緑」というとりわけインパクトの強い色を、きつねうどん、たぬきそばという、まったく無関係なものに無理やり結びつけ、さらに長年にわたって言い張ったあたりが勝因だろう
長 年 に わ た っ て 言 い 張 っ た
確かに。
「赤いきつねと緑のたぬき」は、1978年の発売から一貫して武田鉄矢を起用したCMを流し続けており、42年もの”言い張り”は確かに勝因と言えるだろう。言ったもの勝ち、言い張ったもの勝ち、浸透させたもの勝ちである。ちなみに武田鉄矢が起用された理由の一つに、ちょうど映画「幸福の黄色いハンカチ」の主演に抜擢された事があるらしく、ここに突然赤と緑の中間色、黄色の情報が入って来るが、……それはただの、偶然である。