「そうだね、プロテインだね」
出典元、お笑い芸人パッション屋良(ぱっしょんやら)がネタで使うセリフの一つ。タンパク質満点。
パッション屋良はマッチョメンのお笑い芸人である。ネタのスタイルは、客席に呼び掛ける体操のお兄さん風。客席に向けて教育テレビかと思わせる優しい語り口で語りかける。その開幕のお約束が、バリエーションはたくさんあるが一つを挙げるとこれである。
「会場のみんなー、お風呂上がりの一杯と言えば?」
そして会場からの返事を待たず、もしくは無視して、
「そうだね、プロテインだね」
とにこやかに決めるのである。つかみはオッケー。回答がプロテインとは全く関係のないものや、プロテインだとちょっとおかしいぐらいのものまであるが、その微妙なおかしさ加減がこのやり取りの肝である。
パッション屋良の持ちギャグの一つに、胸を叩いて「んー! んー! んーーー!?」という子どもが真似したくなるネタがある。ある意味よくいる「奇声を発するタイプのネタ芸人」だろう。しかし得てして、こういったネタは飽きられやすい。客が飽きて来ると熱も落ちてしまうのだが、ここで滑った空気を拾うのもパッション屋良の上手いところである。”すべりギャグ”の使い手とも言える。観客の空気を読み、
「徐々にお兄さんについて来てね」
「もうみんな疲れた?」
「もうすぐ終わるからね」
「お兄さん調子に乗りすぎたね」
などとやるのである。客が、ちょっと今のネタいまいちだったな、と思って笑顔が固まってきたところにコレを使われてしまうと、また一つドッと笑いが起こる。ネタのメイン部分は、しょーもない”物ボケ”だったりするのだが、それが面白かったらそれでいいし、つまらなかったとしても本人から「自分が変な事をやっているのは重々承知の上ですよ」の体(てい)を取られてしまうと、冷めた客も思わず笑ってしまう。多少の滑りもものともしない、これが反則級の”すべりギャグ”である。バラエティ番組でお笑い芸人がすべった際に、すべった事自体を自分でいじったりするが、パッション屋良はネタの組み立ての中にそれを仕込んでいて、おそらくすべり具合に応じて使い分けている。これを体操のお兄さん口調のまま、やるのである。本人が喜ぶかは分からないが、”すべりギャグの達人”と言ってもいいだろう。
そしてまた「そうだね、プロテインだね」については、意外なところで使われていたりする。どこかと言えば、ネット上での煽り合いに使えてしまうのである。プロテインなど関係ない話を掲示板などでしていた人たちが、なにかで言い争いになり、さらにヒートアップして罵り合いになってしまった。「頭おかしーんじゃねーの」、「幼稚園からやり直せよ」など暴言が飛び交う文字でのケンカである。そんな時に実は、このフレーズは非常に強い威力を発揮する。
「そうだね、プロテインだね」
それまでの文脈とは全く関係ないタイミングでこれを使うのである。しかしとにかく頭に血が上り、理屈ではなく人格攻撃など始めた人に対しては、一旦その熱に冷や水を浴びせるぐらいの効果はあるフレーズである。ネタを知っている人に対して効果が高いが、知らなくても一定量の効果は認められる。一回で冷めないなら、繰り返し使えばいい。冷やしプロテインである。怒っていた人もしばらくすると、やっている行為の無意味さを感じて矛を収めるだろう。ただしこの反撃方法は、「まあ落ち着け」の意味もあるが、「俺の勝ち、お前の言い分はもう聞かん」の意味もややある。そもそもがイレギュラーな使い方なので明確な答えもないため、使う際には注意が必要である。文字のレスポンスにおける空気を読む必要が、ある。そんなもの読めないかもしれないが、読めたとしたら使ってみるといい。
どんなフレーズがどんな場面で有効活用出来るか、分かったものではないエピソードである。この事象に名前を付けるとするならば、”ボケの神髄”だろうか。
本ページの情報は2023年3月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。