「この味がいいね」と君が言ったから 七月六日はサラダ記念日
出典元、俵万智の歌集「サラダ記念日」より。七月六日はサラダ記念日。
何が日本人の心に響くか分かったものではない、を地で行く、日本文学史に残る名短歌である。
短歌などという小説とも俳句とも川柳ともエンターテイメン性の違う、いやあえて言えばやや地味なものを、一躍大ブームにしたとんでもない一句である。出版社もよくやったと思うがとにかくこの一句がすごい。「サラダ記念日」の本は一冊全部短歌なので、百以上ある短歌のうちの一つがこの短歌である。もちろん他の作品もそれなりに出来はいいし、と言うかこうなった以上誰もが褒めなければいけない空気になっているが、やはりこの一句がすべてかっさらって行くだろう。
ウィキペディアによると280万部の大ベストセラーになったらしい。歌集として、今後絶対に抜かれることのない金字塔的数字と言って間違いない。これにより当時は短歌ブームが巻き起こったし、こんな簡単な言葉で売れるならひと山当ててやろうと思った人もプロだけでなく素人からでもたくさん現れた。日本語は知ってるから小説ぐらい書けるだろう、のさらに簡易版である。俳句より川柳よりさらにルールが緩いため、誰もがそう考えたとしてもおかしくないし、仕方がない。
また、出版業界の常で、売れた書籍の名前をもじった名前を付けるとそれなりに売れてしまうという法則があり、似た様な書名の本が当時はたくさん本屋に並んでいたらしい。プライドはないのか、と思うが、たぶんない。作者にあったとしても出版社にないので結局結果は同じである。
しかし何が日本人の心に響くか分かったものではないのである。エセはエセだし、似ていないとインパクトがないのに、似ているとすぐパクリの様なものだとバレるので、どちらにせよ読者にも作者の「ブームに乗っかってやろう」の気持ちは伝わってしまう。結局本物だけが生き残る。短歌の裾野を広げたという意味では大きかっただろうが、似たものでひと山当ててやろうとした人にはそう上手く行かなかっただろう。当時どのくらい社会現象になったか、「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日」というあの伝説の映画シリーズに名前が付いたぐらい凄かったと言えば分かるだろうか。
現在七月六日は実際に「サラダ記念日」になっているらしいのだが、どのくらい公的な記念日なのかはよく分からない。しかしたまにカレンダーに載っているぐらいだし、それなりに公なものなのだろう。ちょっとありえない話だが、それがありえてしまう程の影響力だったのだ。
ちなみに作者の俵万智、「たわら まち」と読むが、女性で現在56歳、子育てをしながら今も執筆業を続けている。別に戦後に活動して今は引退していたり、文学史上の人物でもう死んでいたりする人では全然ない。
歴史に名は、残るだろうが。
本ページの情報は2023年3月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。